菜の花忌 「坂の上の雲」問う

写真の拡大シンポジウムで『坂の上の雲』の魅力を語るパネリストら=栗原怜里撮影
シンポジウムで『坂の上の雲』の魅力を語るパネリストら=栗原怜里撮影
シンポジウムで『坂の上の雲』の魅力を語るパネリストら=栗原怜里撮影

 作家の司馬遼太郎をしのぶ「第14回菜の花忌」(司馬遼太郎記念財団主催)が13日、東京の日比谷公会堂で開かれ、司馬遼太郎賞の授賞式とシンポジウム「『坂の上の雲』と日露戦争」が行われた。

 小説『骸骨ビルの庭』で同賞を受賞した作家の宮本輝さんは受賞スピーチで、日本の艦隊がバルチック艦隊と戦う直前の『坂の上の雲』の場面に言及。「水兵たちが船内を徹底的に掃除し、甲板にまく砂まで消毒する。そのくだりを抑えた筆致で描いている。小説が書けなくてどうにもならないときは、この一節を読み返すことにしている」と語った。

 シンポジウムでは、映画監督の篠田正浩さん、漫画家の黒鉄ヒロシさん、評論家の松本健一さん、東京大教授の加藤陽子さんが作品の魅力や現代への課題を語り合った。

 篠田さんは、酒の席で司馬さんに「篠田くん、君の映画は暗いよ」と言われたというエピソードを披露。「司馬作品が明るいのは、人間に対する信頼があるから。『坂の上の雲』はエリートばかり描いていると言われるが、描こうとしたのは日本の民衆に共通した国民の資質だろう。その資質に対して楽観的だった」と話した。

 松本さんは、「『坂の上の雲』は、日露戦争が明治天皇の戦争、軍神たちの戦争だったというそれまでの見方を覆した。一人一人の国民が歴史の歯車を回したことを描いた」と指摘。加藤さんは、父が司馬と同い年で、同じように従軍経験があるといい、「父ぐらいの戦争で生き残った世代は、こういう(『坂の上の雲』に描かれているような)指導者に率いられたかったと思ったのでは」と語った。

(2010年2月17日  読売新聞)