.....司馬遼太郎氏は原作『坂の 上の雲』の映像化を終世断っていた.....”やはり書物にとどめておきたい”

今日から『坂の上の雲』の放送がスタート

 いよいよ今日から『坂の上の雲』の放送がスタートします(NHK総合、20時〜21時30分)。

それに先立って今朝からNHKは総合、教育テレビの多くの時間帯を番宣に充てています。その中で、10時05分〜11時30分総合の「ぐるっと日本」で松山放送局が制作した「“坂の上の雲” 主人公の一人秋山好古 晩年の物語・中学校長として中学校生徒に伝えた言葉など」を観ました。

好古が晩年、北予中学校の校長として勤務した様子、軍人時代を回顧した模様を映像と半藤一利氏の解説を交えながら制作した番組でした。大筋、好古は職業軍人とは程遠い教育者として尽力した、誠を尊んだ無私の善人ぶりをを描いた番組でした。
その中で、北予中学校の修学旅行先に朝鮮を選んだことを、彼の国際人養成にかけた意気ごみと評し、自分の指揮で多数の兵士の命を失ったことを慰霊する意思として、晩年、松山で単身、質素な生活を送った様子を描いていました。
こういう描き方は予想通りとはいえ、国家の意思で起こした侵略戦争を個人の善意で治癒しよう(ぼかそうとする)とする点で非常に危惧を感じますが(自分の部下を慰霊する意思はあっても戦闘相手国、出兵先の国の兵士らを悼む場面は全くありません)、非常に気になったのは半藤氏の解説です。
子規とともに予備門入学を目指していた真之が兄・好古の説得で軍人に転身したことは、日本が優秀な人材を軍に得たことを意味し、よかった、と語り、司馬「史観」(明治・昭和不連続説)に同調しながら、満州事変を機に日本は国際協調路線から対決路線に転換した、人々の価値観も誠を重んじる価値から利己に転換した、と語っていました。
どういう史実を根拠にいうのでしょうか? 私は歴史「観」あって歴史認識の「考証」がない言動の害悪を痛感するのですが、歴史研究の専門家の皆様、いかがでしょうか?
半藤氏の言動(護憲論など)についてはさまざまな評価があるようですが、共著(座談会)に『司馬遼太郎 リーダーの条件 秋山兄弟、乃木希典、そして坂本竜馬 彼らは「この国」をいかに救ったか』(文芸春秋社)があります。リーダー論に話を旋回させるのも危ない傾向ではないでしょうか?
ちなみに、この座談会に登場する関川夏央氏は坂の上の雲 スペシャルガイドブックに登場し、『坂の上の雲』を<世界がフェアな時代の青春小説>と評しています。ちなみに、関川氏も文芸春秋から『「坂の上の雲」と日本人』と題する文庫本を刊行しています。これまでも、この先もNHKはこうした歴史学研究者というよりは、ドラマの企画に沿った言動をする歴史物作家やドラマのキャストを前面に押し立てて、『坂の上の雲』ブームをかき立てるものと予想されます。それだけに私たちは、ドラマそのものとともに、この間並行して放送されるであろうドラマ宣伝・解説番組も注視していく必要があると思われます。
歴史研究者の皆様 上のような半藤氏の解説、これから放送されるドラマ、解説番組をご覧になった感想・批評をぜひともお知らせくださるようお願いいたします。(醍醐聡)


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