.....司馬遼太郎氏は原作『坂の 上の雲』の映像化を終世断っていた.....”やはり書物にとどめておきたい”

今 なぜ「坂の上の雲」のドラマ化なのか

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今 なぜ「坂の上の雲」のドラマ化なのか(1
2009-12-04 09:13:04 | マスコミ報道NHKは、11月29日夜8時に司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」のドラマをスタートさせた。
生前司馬遼太郎は「坂の上の雲」の映画化、ドラマ化の申し出があっても断ってきたと言われている。おそらく戦争体験者の一人として、ドラマ化されればその 時代背景となっている大日本帝国の富国強兵の国策が美化されて捉えられはしまいかと、一抹の不安を感じていたからではなかろうかと推察する。
「坂の上の雲」の時代背景は大日本帝国の草創期から形成期の時代である。欧米列強帝国主義の植民地拡大策に日本も負けじと富国強兵を国是としている時代に あって、三人の青年主人公のうち、秋山兄弟の無垢な青雲の志を捉えたものは、坂の上の雲のような漠としたものであったとしても、二人の生き様を描くには具 体的に大日本帝国の富国強兵という国家プロジェクトを「核」とせざるを得なかった。そこにドラマ化を頑なに拒み続けた作者の苦悩があったのではなかろう か。
ドラマでの二人の青年が大日本帝国陸軍と海軍の軍人として成長・活躍していく姿は、颯爽としてかっこよく、併せて天皇制国家も美化される。しかしそれは、 昭和の時代の軍国主義に引き継がれ、ファシズムと化し、1931年の満州事変から不幸な15年戦争へと突き進む要因であったことは事実である。
「坂の上の雲」のドラマ化が、そのような時代への回帰の火種にされはしないかと危惧を抱く人は少なくないようだ。NHK放送を常時ウォッチされている東大 の醍醐聡教授は自身のブログで次のように申し入れ文を掲載しておられる。==
  NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」放送についての共同申し入れ(中略)
さて、NHKは来る11月29日から3年間にわたって、スペシャルドラマ『坂の上の雲』の放送を予定しておられますが、ドラマ化の企画意図を次のように説 明しておられます。
「『坂の上の雲』は、国民ひとりひとりが少年のような希望をもって国の近代化に取り組み、そして存亡をかけて日露戦争を戦った『少年の国・明治』の物語で す。そこには、今の日本と同じように新たな価値観の創造に苦悩・奮闘した明治という時代の精神が生き生きと描かれています。
 この作品に込められたメッセージは、日本がこれから向かうべき道を考える上で大きなヒントを与えてくれるに違いありません。」
 私たちはこうした意図のもとに『坂の上の雲』がドラマ化され、多数の視聴者に向けて放送されることに強い危惧を覚え、以下のとおり、申し入れをいたしま す。(以下略)===
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-81cb.html
ところで、当初NHKは03年1月に「坂の上の雲」のドラマ化を発表していたらしいが、脚本家の自殺で撮影が延期され、07年に撮影が始まったと、11月 25日の朝日新聞夕刊は紹介している。
そう言われれてみれば、「坂の上の雲」のドラマ化が決定された03年1月の日本の政権は第一次小泉内閣の時代であり、この時の官房副長官・安倍晋三氏が韓 国人従軍慰安婦問題を扱ったNHKドキュメンタリー番組に横やりを入れた頃でもある。
その後安倍氏は首相に就任して「美しい国へ」という著書を出し、首相時代には憲法改正のための国民投票法や教育基本法を衆議員の3分の2の議決で強行採決 した経歴からも分かるとおり、熱烈な憲法9条改正論者であり、国体改革の熱血漢でもある。
そして首相在任中の07年6月にはNHKの経営委員長に自身の後援会「四季会」のメンバーである富士フイルム会長の古森重隆氏を抜擢し、7月の参議院選挙 期間中に「選挙期間中の歴史ものの番組は慎重に」とNHKの番組に干渉したり、その他の言動で物議を醸したことは記憶に新しい。そして奇しくも歴史ものの 「坂の上の雲」が撮影開始されたのも07年である。
安倍首相は07年7月の参議員選挙に惨敗する迄は、国体を変えることに繋がる国民投票法や教育基本法案を相次いで成立させ絶頂期にあった。次の安倍政権シ ナリオは当前、参議員選挙でも圧勝し、国民投票法にもとずき両院の3分の2で憲法改正案を発議し、国民の直接投票で過半数を得て憲法9条を改正しようとい うものであっただろう。
しかし、これまでの各種の国民世論調査では憲法9条改正には反対が多数を示す結果が出ており、例え両院の国会議員の3分の2の賛成で憲法9条改正が発議で きたとしても、国民の直接投票で過半数を得る確たる自信は持ち得てはいなかったであろう。そこでどのようにして憲法9条改正のムード醸成と国民の意識改革 を計るかが大きな課題であったことは、容易に想像できるのである。

今 なぜ「坂の上の雲」のドラマ化なのか(2)
2009-12-04 09:12:04 | マスコミ報道そこで白羽の矢が立てられたのが、司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」をNHKでドラマ化である。これに目を付けたのは安倍首相や古森委員長では なく、例えば日本最大の保守系組織「日本会議」というようなところで考えられ、NHKに横やりを入れ味をしめた安倍氏が首相となり、後援会で意気投合して いた古森氏を経営委員長に抜擢したところで、ドラマ化が具体化していったという推論も、あながち不自然ではないのである。
「坂の上の雲」の放送は09年11月29日にスタートし、2011年迄の3年間に亘って、09年は全5回(第一部)、010年全4回(第二部)、011年 全4回(第三部)放送されることになっている。
一方国民投票法が施行されるのは2010年5月18日であり、その後に先ず国会の発議が成立すれば60日から180日の間に国民投票が行われる規定(2 条)であり、ドラマの放送日程と国民投票のスケジュールを見れば、ほぼ国民の投票と「坂の上の雲」の放送期間は同期しているのである。
この種のドラマが国民投票と重なった場合、このドラマを見た国民の意識にどのように作用するかが最大の問題であろう。予断はできないが、平成の富国強兵願 望の火種に成らないか危惧せざるを得ない。そして憲法改正派の狙いはまさにそこに置かれているのではなかろうかと思う次第である。
幸い先の衆議員選挙で自民党は政権を失ったので自民党の野望はついえたと観ることもできるが、それでもドラマの影響で、夢よもう一度と国民の富国強兵願望 に火がつけば、政権に就いた民主党が憲法問題に限って自民党議員に食指を伸ばして超党派を組み、憲法9条改正に動かないという保証はこれまた無いのであ る。
何れにしろドラマを見た視聴者が「坂の上の雲」の時代背景と秋山兄弟の生き様をどのように捕らえ、何を感じるか予想できないが、少なからず今の混沌とした 政治状況より明治以降のメリハリが効いた富国強兵政治にノスタルジアを感じ、憲法改正の動きに同調者が増えるのではないだろうか。その意味でも、「坂の上 の雲」が放送されるに当たって大日本帝国の富国強兵策が何を日本にもたらしたか、しっかり歴史的事実を見据えて行くとが大事な気がする。
皇国史観に基づく明治以来の大日本帝国の富国強兵策は、昭和の軍国主義主導のファシズム国家を生み、1931年(昭和6年)に15年戦争に突入し、国民を 戦争に駆り立てた。太平洋戦争だけで兵員230万人、一般国民80万人、計310万人 の犠牲者を出し、国土は2個の原爆投下とB29の無差別爆撃で焦土と化し、戦後は海外からの何十万人の引揚者共々塗炭の苦しみを味わい、未だに南方の諸島 には何十万人もの日本兵の遺骨が収集されず放置されたままと言われる。
ドラマに登場するであろう1904年の日露戦争の勝利は、1868年の明治維新から1945年の太平洋戦争までの富国強兵による大日本帝国の通過点であ り、その最終結末は310万人の戦争犠牲者をだし、財産を焼き払われ、国土を占領された太平洋戦争での悲惨な敗戦であったと総括できるであろう。
それを今また、国民の生命と財産と国家を守るためには憲法9条改正が必要と言われ、「坂の上の雲」の秋山兄弟の様に、「青年よ大志を抱け」と言われても、 戦中派の被災経験者は、「秋山兄弟ちょっと待ってくれ!昭和の15年戦争の結末は一体何だったのか、憲法9条を改正しなくとも国と国民の生命・財産を守る 方法があるはずだ」と言わざるを得ないのである。

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